ハッカー戦争

石川県某所 サイト-81██

「それじゃ、俺はこれで」
「はい。またいつかお願いしますね」

見送りをしてもらいながらサイト-81██から出ると、うだるような暑さと雲一つない空に佇む太陽の光に襲われた。ここ数日研究室に篭っていた事もあり、体感気温は適度に外を出歩いている一般人よりも高く感じているはずだ。
移動の手配はしていない — いつものことだ — にも関わらず、見覚えのあるポルシェが駐車されていた。

「…エージェント・ロロ?」

俺の呼びかけに対して、ポルシェは2回ヘッドライトを点滅させた — 恐らく“YES”という意味だ。その直後に、俺の携帯にエージェント・ロロからのメッセージが届く。「乗ってください」との事だった。遠慮なく乗らせてもらうことにした。

『お久しぶりです』
「ああ、迎えに来てくれたのか」
『はい。宿舎でいいですか?』
「いや、先によりたいところがある。ルート情報を送っとく」
『わかりました。…これは、甘味処ですか?』
「そうだ。この暑さにぴったりな名物を食いたくてな」
『へぇ、何が名物なんですか?』
「氷」
『…氷?』
「かき氷だよ。ここ金沢の名物である純氷で作られたかき氷は最高にうまい」

そう。あまり知られていないが、金沢の名物には純氷がある。江戸時代から独自の製法でじっくりと時間をかけて作られているこの氷は、不純物や気泡が少なく、家で作った氷特有の匂いや味が全くない。この純氷で作られたかき氷は、従来の氷よりもよりきめ細かく、そして口に入れればすぐに溶ける。その舌触りは癖になるほどで、氷自体が味も匂いも無いため、シロップや付け合せの甘味の味を邪魔しない。

『初めて知りました。…あの、よければ僕にも』
「おいおい、公衆の面前で給油口からかき氷垂れ流せって?」
『み、見えないところで…』
「そこまで持っていく間に溶けるって」
『ですよねぇ…』

エージェント・ロロが残念そうにしたその時、俺はふとバックパックに仕舞っていた研究の成果物の存在を思い出した。

「…いや、待て。周りの目を気にせずに食う方法があるぞ」
『え!本当ですか!?』
「ああ。とりあえず運転は任せた。その間に準備はできてるだろうから」
『わかりました。あ、シートベルトは着用してくださいね』
「…バレルロールはするなよ?」
『そんなのになるほど飛ばしたりはしませんよ!』


「…悪い、エージェント・ロロ。目的地を変更だ」
『はい。こちらにも通達が来ました。次の交差点でサイト-81██に戻るルートに変更します』

通達の内容を読み進める度に、俺はわずかどころではない不安を抱いた。

「かき氷はまた今度…いや、今度があるかもわからないな」

それは、現実改変者の終了依頼だった。


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